
東京に夫を置いて単身赴任した時に感じた「ジェンダー問題」、自分ごととして捉えられるようになるためのキーワードは?
今回取り上げるのは、『「ケアされるの当たり前」と思う男性、呪縛をどう解く?鍵握るのは』です。
この記事を読んで思い出したのは、私がNHKにアナウンサーとして勤務していた頃のこと、2004年春に東京アナウンス室から名古屋放送局に単身赴任した際のエピソードです。
NHK職員ではない夫は東京で変わらず勤務。それまで住んでいた東京の自宅はそのままに、私の荷物のみをすべて名古屋の単身者向け賃貸マンションに送り、別居生活を始めることになりました。当時夫との間に子どもはおらず、子連れ単身赴任者の大変さとは比較にならないかもしれませんが、同じく名古屋に単身赴任してきた他の男性職員と比べて私の置かれた状況はかなり異なるなあ、と実感したことがあります。
それは、今回取り上げた記事の中でも出てくるキーワード、女性の「無償ケア労働」です。名古屋に転勤してすぐに、東海地方に放送される朝のニュース番組を、別のアナウンサーと私がそれぞれ月曜から金曜まで一週ごとに担当することが決まっていたのですが、東京の自宅から荷物を出し、自分の身だけ新幹線に乗って名古屋に移動したその次の日の未明から、すぐに朝の番組に出演するというかなり厳しいスケジュールが提示されました。
というのは、私の担当週ではない時に出演しているもう1人のアナウンサーが他県に出張に行くことになってしまい、私が出る以外の選択肢がなかったからです。試しに、本来のレギュラー担当でない別のアナウンサーにせめて最初の3日ほどは代わりをお願いできないか聞いてみたところ、「せっかく新年度に入るのにこれから番組を担当する新キャスターが出ないと困る」との理由で叶えられませんでした。
私と同時期に名古屋に単身赴任した男性職員の引っ越し作業は、東京から妻がしばらく手伝いに来ていたようで、すぐに通常運転ができていたように見受けられました。今回の記事のキーワード「女性の無償ケア労働」によって、男性の勤務が支えられているとはまさにこのことなのだと実感した出来事です。対する私は東京からの荷物の引き受けや段ボール箱の整理など、やらねばならないことが山積みで、しばらく落ち着かなかった記憶があります。
当時は女性の単身赴任もまだまだ珍しく、それまで男性が担ってきたやり方をそのまま当てはめていたのだと思われますが、それは男性にとっても「働きやすい」体制だったのか、再考する必要があると思います。「女性の無償ケア労働」がないと成り立たないような労働環境は、果たして持続可能なものなのかと思わざるを得ないからです。
この記事にある「ケアワークがなぜ無償あるいは低賃金で放置され、かつ軽視されてきたのか」と「女性活躍推進」との齟齬(そご)はこれからの社会で避けて通れない議論になるはずです。